未来の君のために、この恋に終止符を。
驚いた反応を見せる周りの人と、傷ついた表情を見せる晴樹。
そしてその向こうに、いつもどおりの華やかな、それでいて仄暗い夕闇の瞳を持つ立川さんと視線を絡めた。
ああ、……わざとか。
私が長袖の理由を知っているとは思いたくないけど、意図的にかけたんだ。
私が晴樹に大切にされているように見えたから、嫌がらせで。
その立川さんの行動が原因で、伸ばされた彼の手を拒絶した私を見て、彼女は満足しているらしい。
そんな表情でさえ、彼女は醜くも美しい。
自分に自信のある人特有のきらめきが眩しい。
「とりあえず、どこかで着替えでも買おう。
それとも、適当に見繕ってこようか?」
落ち着いた彼の声が、そっと撫でるように柔らかい。
もう手を伸ばさない彼に向かって、私は首を横に振った。
「いい。いらない。
……勝手にするから放っておいて」
「でも、」
「帰るから」
え? と晴樹が息をこぼす。
細い細い、ため息のように。
「先に帰るから、あとはみんなで楽しんで」
頭を軽く下げて、その場を駆け出す。
私の名前を呼ぶ晴樹の声に、立川さんの甘い声が重なった。
それは掌のようには避けられず、絡まる。
それらに背を向けて、エスカレーターを駆け降りた。