未来の君のために、この恋に終止符を。
女性ものの服を扱っているフロアの隅のお手洗いのそば、ガラス張りの喫煙所の外陰に逃げこむ。
中に誰もいないことを確認して、その場にしゃがみこんだ。
荒くなった息を抑えようと息を深く吸うと、ひゅうと小さく音がして、泣き出す寸前の音のように聞こえる。
それにつられるようにして、眉が寄る。
うつむいたまま、濡れた左腕を覆うセーラーの袖をそっとまくる。
ひじまであげると、そこには見慣れた、だけどいつも必死で隠している傷跡があった。
ずいぶんと小さくなったけど、それでも白い肌の上でそれだけが異質な傷跡。
木の枝が深く突き刺さった跡だ。
2年前についたこれは、もう消えない。
全ての歪みのはじまりはあの時。
私の油断が彼を縛りつけて、いまだに捕らえたままでいる。
これがなければ晴樹が苦しむことはない。
そしてこれがなければ晴樹がそばにいてくれることは、ない。
だから私は隠していながら、傷をこのままにしているんだ。
帰りたい、とふと思う。
だけど、どこに?
私はどこに帰りたいんだろう。
立川さんたちのいない自分の家だろうか。
それとも、────幸せだった思い出の日々にだろうか。
ああ、だけど、願ったとして、どこに帰るというんだろう。
私の居場所なんて、きっとないのに。
もうどこにも、帰ることはできないのに。