未来の君のために、この恋に終止符を。
彼の顔を見ていると、情けなくて悔しくて、泣きたい気分になってしまう。
だけど私よりずっと、晴樹の方が泣いているように見える。
「実莉……帰ろう」
消えてしまいそうな儚い声が胸に広がる。
ひたひたと涙のように静かに染み渡る。
「……うん」
震えた声で応えれば、彼が私の右手を引いて立ち上がらせる。
だけどその感覚はやはり人肌ではなく、風が流れるよう。
掌をさらりと撫でるそれに攫われるようにして、足をゆっくりと進めた。
こちらを見ることはない彼のあごのラインを見つめる。
毛先がふわふわと揺れる。
長年見てきた晴樹そのままではない、だけど確かに面影がある。
ああ、本当に、本当に彼は……
「晴樹」
はじめて、彼を名前で呼んだ。
数秒の間ののち、彼は繋がった手に力をこめる。
「……なに?」
「……なんでもない」
突然現れた、22歳の水村 晴樹。
彼は未来からやって来た、私の、恋人なんだ。
「ごめんな」
どうしてか謝る未来の晴樹に腕を引かれたまま歩き続けた。
現在の晴樹とやって来た道のりを、互いに黙りこみながら。
一粒だけ、涙がまつげの先から落ちていった。