未来の君のために、この恋に終止符を。




なんだか力が抜ける……と疲れを感じていると、安藤くんはさっきとは比べものにならないほど驚くべき言葉を発した。



「晴樹はあのあと、キレてた」

「え?」



キレる、という言葉と普段縁遠い晴樹の顔が浮かぶ。

そしてそれをなぞるように、隣の未来の晴樹を見る。



……やっぱり想像できないと思った。



仮に彼が本当に怒っていたとして、その原因はなんだろう。

……誰に対してなんだろう。



迷惑かけて、振り回して、心配かけて、逃げ出して。

最低なことしかしていない私に怒りを抱いた可能性は大いにある。



私の前では笑ってばかりの彼が私のいないところでどんな表情を、態度を、取っているかなんてわからない。

わからないから、不安になるんだ。



「それは……私に?」

「はぁ?」



全力でばかにされた表情と声色。

実際に流れるようにばかか、と言われた。



「菜津にだよ。花沢にキレてどうすんだ」



声には出さず、知らないよと反論する。

だって近いようで晴樹に誰より遠いから、なにがあっても信じられるようなことはない。



「菜津の態度は明らかに悪かったからな。
最終的にデートじゃなくなってたし」

「……」

「俺を呼びとめるんじゃなくて実莉を呼びとめて謝れよ! って。
そのあと晴樹はひとりで追いかけたみたいだけど、会えなかったらしいな」



なにそれ……。



現在の晴樹も、未来の晴樹も、そんなことはおくびにも出さなかった。

一言だって教えてくれなかった。

いつもどおり、見事なまでに隠されてしまっていたんだ。






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