未来の君のために、この恋に終止符を。
晴樹のことが、大切だと思う。
優しくしたいと思う。
好きだと、思う。
だからといって私にできることなんてなにもない。
わがままで身勝手だから。
「実莉……」
未来の晴樹が私の名前を呼ぶ。
上から降ってくる声は、クーラーで冷えた私の肩を上着で包んでくれたかのようにあたたかい。
そのぬくもりを噛み締めるように、振り払えないことを叱るように、うつむいて唇に歯を立てる。
昔の晴樹を奪った私がこれ以上彼からなにも奪いたくないのに。
それでも、甘えてしまいそうになるから。
だから、
「……放っておいて」
晴樹のいい友だち、口は悪くも正直な安藤くん。
彼の言葉にはひとつ誤りがある。
『俺たちのことが嫌いなのは見てたらわかる』
そうじゃない。
嫌いじゃない。
嫌いだけど、みんなが本当に嫌いなわけじゃない。
もちろん立川さんみたいに明らかに敵意を向けてくる人を好きにはならないし、晴樹と親しいところも腹が立つ。
可能な限り近寄りたくない相手だ。
安藤くんだって好き勝手言ってきて、面倒だった。
だけど、私が嫌いなのは、ただひとり。
花沢 実莉────私のことだけだ。