未来の君のために、この恋に終止符を。




「っ……」



可愛いってなに。

私なんかを可愛いって、……なに。



現在の晴樹なら教えてくれなかっただろう、私たちの間には無縁の言葉。

それがあまりにも簡単に投げこまれてしまい、どう反応すればいいかわからない。



触れられず遠巻きに眺めると、それは沈んでいく。

深く、深く、私の心の奥底にこつんと落ちて、消えないことに震えて波を立てるんだ。



「……実莉の方が顔赤いけど」



現在の晴樹がそう言って不思議そうな表情を向けるから、どうか見ないで欲しいと思う。

いつもの私を繕えないから。

正しい距離を崩してしまいそうだから。



それなのに未来の晴樹は機嫌のよさそうな笑みを含んだ声を上げて、私の隣に腰かける。

長い足を投げ出した、力の抜けた様子は夏を感じさせない。

ゆるりとした独特の空気をまとっている。



赤い顔を掌で覆って、腰から曲げるようにしてうつむいた。



「気にしないで」

「いや、でも、」

「いいから」

「……うん」



私に向けられる言葉を拒絶して、呑みこませてしまった。

その罪悪感と羞恥心から、隠した顔を見られないことに安心して歪めた。



恋をしているわけでもないのに、私に甘い感情を胸に抱くのは、どうして?

私にはわからないような策略かなにかなの?



「ずるい、なぁ……」



手放したいほど苦しくて、恋しくて、好きだと思わせるなんて。

心底ずるいと思った。






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