未来の君のために、この恋に終止符を。
「そっか、わかった!」
ぱちん、と両手をあわせた音が予想より大きく響く。
その音を立てた張本人、片岡さんは朝日のような瞳を輝かせる。
今は、夏期講習の数学を受けたあとの休み時間。
さっきの授業でわからない問題があったからと尋ねられ、教えていたんだ。
以前から言われていたことだから教えてとの言葉を拒絶しきれず、仕方がなく解説した。
だけど、片岡さんはそもそも頭のできがいい。
少し計算式について口を出せばあっという間に解いてしまった。
「ありがとう、花沢さん。
おかげでよくわかったよ!」
「たいした説明してないけど」
「でも教えてくれたことには変わりないよ。
だからありがとう」
片岡さんの言葉には芯がある。
自分の信念、確かな思いの元に行動している。
それはなんて強く、美しいんだろう。
「じゃあわたし、次の英語のために移動するね」
英語の時間は片岡さんとはクラスが違う。
私は教室も変わらないけど、片岡さんは隣の教室に移動しなくてはいけない。
もうすぐ次の授業がはじまるし、彼女と同じクラスの晴樹と安藤くんは既に移動しているはずだ。
慌ただしく教科書やノートをまとめながらも、にこやかな表情は変わらない。
何度か頷くだけで応えた私に片岡さんはまた教えてね、と手を振って教室を出た。