未来の君のために、この恋に終止符を。
悲しいのは、嬉しいから
ぺらり、と乾いたページをめくる音。
意識の遠い部分で聞こえるそれは、本を読む際のいいBGMだ。
クーラーで冷えた自分の部屋でひとり、紙の香りを吸いこむ。
夏期講習の課題を終わらせた日曜日の午後。
マキシ丈ワンピと楽な部屋着で、私は安息の時間を過ごしていた。
読書は誰にも邪魔されない、私の数少ない楽しみ。
暇な時間はいつもなにかしら本を読んでいる。
世間でよく言われるだけあって、本の世界に入りこむことで現実が気にかからなくなることは事実だ。
世界は切り取られ、隔離され、つかの間の心の休息を与えられる。
私が本を好きなのはそれだけじゃなく、純粋に面白いと思うからだけど、やはり自分自身を忘れたいという思いもあるんだ。
だけど最近は完全に自分を忘れられずにいる。
それは、私がひとりじゃないから。
そばにはいつでも、未来の晴樹がいるから。
今も当然同じ部屋にいる彼は、私の邪魔をすることなく黙っている。
机に向かっている私の周りに立つことはさすがに気が散るだろうと気を遣ったのか、私のベッドの上。
気になることと言えば、そこに彼が寝転がっていることだ。