未来の君のために、この恋に終止符を。
「最近、実莉は片岡と一緒にいることが多いよね」
「まぁ、そうだね」
確かに、夏期講習の初日に隣になってから、同じクラスの時は毎回隣に座る流れになっている。
数学を教えてと言ってきたり、必要以上にあたしに構う彼女だから、以前よりずっと時間を共にすることが増えた。
「でも、それがどうしたの?」
意味なく本を視界に入れた。
組んでいた手をほどき、本に触れたままだった指先で表紙のふちをなぞる。
「いい傾向だなって」
「いい傾向……?」
予想とは違う言葉に再びちらりと視線をやる。
「うん。実莉が誰かといると、ひとりじゃないと安心する。楽しそうにしていると嬉しい」
そう言って晴樹は、口の中でほどける砂糖菓子のように甘く笑った。
恥ずかしそうで、嬉しそうだった。
だけど、その表情よりも私の心にとまったのは、彼の言葉だ。
『実莉が誰かといると、ひとりじゃないと安心する。楽しそうにしていると嬉しい』
『でも実莉がひとりじゃないことが嬉しいの、本当だからね』
現在の晴樹と、未来の晴樹の言葉。
どちらも同じことを言っていた。
冗談みたいな未来の晴樹の言葉は、うそじゃなかったんだ。
わかりやすく向けられた私を想う言葉に、鼻がつんと痛んだ。
ただただ、嬉しかった。