未来の君のために、この恋に終止符を。
ぼんやりと消えてしまいそうなほど曖昧な影を持つ彼は1歩も動かず、立ったまま両手をあげる。
怪しくないから、と危険性を否定しているけど……どう考えても怪しい。
ごくりと唾を飲みこみ、睨みつけたまま目をそらすことはできない。
私が黙っていると、彼が唇を動かす。
「そっか……」
とぷん、と水中に落とされたかのような濡れた声色。
一瞬泣いているのかと思ったが、彼は瞳を潤ませることもなく、ただ困ったようにさみしそうに、眉を下げていた。
「俺は昔の君も今の君も知っているけど、君には今の俺はわからないんだね」
本当に、この人はなにを言っているんだろう。
眉間にしわが寄る。
ぎゅっと深く刻みこまれ、それが私の困惑を表していた。
「今の俺としては、はじめまして。
水村 晴樹、22歳。
同じく22歳、花沢 実莉の幼馴染兼恋人をしています」
吹っ切ったかのように諦めの笑みを浮かべて、彼が言葉を紡ぐ。
私には到底理解できないそれらを並べていく。
「俺は、7年後の、未来から来た」
はっきりとしたその声は、私の耳を通る。
ゆっくりと吞みこむように内容を頭の中で繰り返して、それでも本当の意味では理解できていない。
「……え?」