未来の君のために、この恋に終止符を。
「ありがとう」
感情をそぎ落として、淡々としたいつものトーンで最低限の言葉を吐き出した。
のどの奥で引っかかるような感覚には気づかないふりをした。
「うん」
お礼を言われれば私が相手でも嬉しいのか、晴樹は洗いたてのタオルのようにふわふわと笑って頷いた。
なにを言いたいのか、自分でもわからない。
だけど衝動に背を押されるようにして唇を開いた瞬間、
「晴樹ー」
下のリビングから彼を呼ぶ、お母さんの声が聞こえた。
「ごめんねー、ちょっと手伝ってくれるー?」
お母さんに返事をした晴樹は、なんだろう? と首を傾げた。
だけどお母さんを避けている私と違って、普段から日常的に手伝っている彼はなんの抵抗もなさそうだ。
なにもかも押しつけている自分を感じて、今更ながら申し訳なくなった。
「さっき実莉、なにか言おうとしてたよね?」
「ううん、……なんでもない」
ふるりと首を横に振って、緩んでいた唇を引き結ぶ。
心があふれないように、唇同士で縫いつけたかのように。
「……そっか。じゃあ下に降りてるね」
さっきまでと違い、さみしさを隠しきれていないかすかな笑みになる。
そして晴樹は私の部屋から出て行った。