未来の君のために、この恋に終止符を。
目の前のこの不審な男が晴樹だなんて、そんなはずがない。
晴樹は生まれた頃からずっと一緒で、私はずっと隣で彼を見てきた。
どんな時も、隣にいた。
さっきだってふたりで一緒に帰って来たんだ。
それなのに、明らかに年上のこの人が私の幼馴染だなんて、そんなこと子どもでも信じるわけがない。
「ばかにしないで」
握りこぶしを作った手が怒りで震える。
爪が掌に食いこんでも力を緩めることなんてできそうにない。
私と彼のことをとやかく言ってくる人は今までに何人もいたけど、こんなふうに嘲りを向けられる謂れはないはずだ。
その時、1階から私を呼ぶお母さんの声が聞こえた。
憤りを隠そうとしない私の声が大きくなりすぎてしまったんだろう。
心配をかけたみたいだ。
一定のリズムで大きくなる足音。
お母さんが階段を上って来ているらしい。
変な男だし頭はおかしいけど、特に秀でた危険性は感じない。
それでもふたりを会わせるのは得策ではないように思う。
どうしたらいいの?
ひとり焦るも、未来の晴樹だと言う彼は飄々としていて、動揺の色を見せない。
隠すべきか否かと悩んでいる隙に、お母さんがひょこりと顔をのぞかせた。