未来の君のために、この恋に終止符を。
第3章
わがままな、優しさ
中学2年生、夏。
長期休みに入る直前の朝のこと。
『花沢さんが好きです。付き合ってください。
今日の放課後、中庭で待っています』
ノートを千切って作られたそれは、私宛のラブレターだった。
蝉は、私を冷やかすように騒がしく鳴きわめいていた。
差出人は、隣のクラスの田中くん。
私が図書委員の担当の時に何度も本を借りに来ていた人だ。
クラス、番号、名前。
それを聞いて、貸出と返却の処理をする。
ただそれだけの関係だったけど、必ず毎日訪れる彼のことは印象に残っていただけに、とても驚いた。
彼はまったく知らない人じゃないけど、詳しくは知らない人。
本が好きで、毎日上限の5冊を借りていって、次の日には全部読んで持って来る。
好きなジャンルは決まっておらずなんでも手に取る、と私が田中くんのことで知っているのはたったそれだけだ。
そんな情報しかない中で返事をすることは気が引ける。
とはいえ、どれだけ彼のことを知っていたって私の返事は変わらないのだけど。
それでも、真剣に受け止めた上できちんと返事をしてしたいと思う。
だって、はじめてなんだ。
誰かに好きだと言ってもらったことは、真摯な想いを向けられたことは。
なら、私も誠意を持って応えたい。
だからこそ、
「返事、どうしよう……」
ラブレターを眺めつつ、私はため息を吐き出した。