未来の君のために、この恋に終止符を。
「そっかー……やっぱりいい人なんだね」
「うん、そうだね。田中は誰にでも優しいよ」
ふたりして田中くんに目をやったまま、言葉だけを交わす。
そうしていると、田中くんは後ろの席の人に話しかけられて、読んでいた本を閉じて笑顔で対応した。
息を吐くように自然に笑って、楽しそうだ。
「そっかぁ……」
ふわりとした空気に言葉をとかす。
簡単にかき消されてしまうものなのに、それでも晴樹は気になるようでちらりと私を見る。
だけど返す言葉を持たない私は気づかなかったかのように顔を向けず、その場を流す。
その時、私たちの視線にようやく気づいた田中くんがこちらを見る。
目を大きく見開いて、眼鏡のレンズ越しに目があった。
ぺこり、と頭を下げられて、私も同じように返す。
すると田中くんは嬉しそうに笑った。
それはまるで寝起きの子猫のようにふにゃふにゃと緩んでいて、無邪気で、可愛らしい表情だった。
これ以上この場にいることは恥ずかしく、私は自分の教室に足を向ける。
なぜかあとをついてくる晴樹は私の後ろにいて、表情は見れない。
「もしかして……」
廊下の窓の向こうにある木々のざわめきの方がよく聞こえるほど、かすかな彼の言葉。
その先を聞くことがこわくて、私は聞こえなかったふりをして、逃げた。