未来の君のために、この恋に終止符を。
ぼんやりと空を埋める木の葉を見あげる。
豊かな葉が風に踊らされていた。
ベンチに座りながらそれらがこすれる音を聞いていると、突然視界いっぱいに綺麗な顔が広がる。
「晴樹、どうしたの」
いつも笑顔の彼にしては珍しく、むっとした不機嫌な表情。
笑っていない時なんてほとんどないから、その落差になんだかこわくなる。
だけど彼の瞳は不安そうに揺らいでいて、思わず頬に手を伸ばした。
「変な顔してるよ」
「変じゃないよ」
「変だよ。
だってなんだか晴樹、今にも泣きそう」
するりと掌をすべらせて、優しく撫でる。
背丈はそんなに変わらないけど、さすがに立ったままの彼とは大きく違う。
ん、と伸ばした腕が辛くて少しだけ震える。
されるがままになっていた晴樹はふうっと息を吐き出すと、「実莉が気にすることじゃないよ」と首を横に振った。
「いつも一緒に帰ってるのに実莉がどこにもいないから探してただけ」
「……」
気にすることない、なんて言いながらその言葉が意味しているのはちょっとは気にしろ、ということ。
確かに私が晴樹になにも言っていなかったせいだし、明らかに私が悪い。
気が回らないにもほどがある。
「……ごめん、忘れてた」
「だろうと思った」
くすりと晴樹は笑みをこぼし、少し頬が緩んだ。
だけどその表情はすぐに唇が引き結ばれたものになり、晴樹らしくない様子でいる。
私の腕は彼の手の中に収まり、頬から引きはがされた。