未来の君のために、この恋に終止符を。
「そっちじゃなくて、隣の木。
そっちなら低いし実莉でも登れるはず。
そばのベンチから低い枝に足を伸ばして」
「うん……」
なんだかんたで優しい彼は、登りはせずとも私に教えてはくれるらしい。
指示通りに足をかけ、手を伸ばし、ゆっくりと登っていく。
「そっちじゃなくて、もう1本左の枝。
そう、それに足を引っかけて、その上で枝をまたいだら……」
「登れた……!」
木の上で腰をすえて、安定した体勢になる。
体のあちこちが痛くてだるい、と思いつつも達成感を感じた。
「ありがとう、晴樹。おかげでなんとか登れた」
「……登れてよかったね」
「うん!」
力強く頷いて、ラブレターの引っかかった枝にそっと手を伸ばす。
「……実莉」
「んー? なに」
「あのさ、」
指先が紙に触れる。
雑になってしまうけど、ぎゅうと握り落とさないようにした。
その瞬間、
「田中と付き合うの?」
私に向けられた予想もしない言葉に。
そんなことを気にしていたと知った事実に。
私はとても驚いて、晴樹と視線を絡める。
そしてそのまま答えを返す前に、動揺から手をすべらせて、上体は木の上から離れていった。
体のあちこちが痛くて、左腕が動かせないほどあつかった。
「実莉!」
必死な顔で私の名前を呼ぶ彼のことだけが、スローモーションで見えていた。