セピア -sepia-
すうっと息を吸い込むと、むせ返るような緑の匂いに混じって、湿っぽさが鼻を通っていく。
五月の終わり。
梅雨が待ち構えているというのに、夏はせっかちだ。
空は今日も変わらず青い。飛行機雲が二本、右と左に伸びている。
そのまま視線を下ろすと、新緑で覆われた山があって、その奥には藍色に見える山脈が連なっている。
眼下に広がるのは、畑と田んぼ。ぽつりぽつりと家が建っているけど、どれもこれも古い日本家屋ばかり。あちこちに散らばる茶色だ。
そろっと首をすぼめて、目を左右に動かす。
大丈夫、こっちを見てるのは野口さんちの田んぼのカカシだけ。
「……よっし」
呟いて、もう一度息を吸う。今度は泥の匂いが混じっていた。