セピア -sepia-
教室に入ってきた先生は、決まって物珍しそうに俺を見た。
「本当に転校生いる……!」
中には、返答しがたい感想を述べてから授業を始める先生もいて、そのたびに笑顔で対応して、必要以上に疲れた。
授業自体は、東京にいたときに習ったことがほとんどで。
ただぼんやりしているだけで、時間が過ぎていく。
「……、書けぬ」
隣でボールペンと格闘している変な人は無視だ。
バネないんだから、そうなるの当たり前だっつの。
そういえば、机の配置は東京のときと違う。
人数が少ないのはもちろんのこと、隣と机は引っ付いている。
小学校のときみたいだ。
相澤との間には通路があるけど、みどりとの間にはない。
「柊さーん……、ボールペン貸してー」
だから、こうやって話し掛けられても、逃げ出すことは不可能に近い。
「……バネは」
「旅に出たっぽい」
「……」
っていうか、今の時間にボールペンで何するんだよ。
そう思いつつ、溜め息を吐きながらボールペンを渡す。
みどりは、ありがとう、と言いながらへらっと笑って、ノートに何か書き始めた。
もうみどりの生態に興味が失せた俺は、前の席の野口ペアに視線を向ける。
聞いたところによると、達郎は学級委員だそうだ。
この学校にも学級委員があったことに安心したものの、需要があるのかどうかは不明。