スノウ・ファントム



 * * *



「だけど……そんな無気力な毎日のなかで、唯一の光があった」


空き教室の真ん中。伏し目がちにすべてを語ってくれた葉村くんは、そこで顔を上げた。

彼の瞳に映るのは、涙をこらえて鼻を赤くした、情けない顔の私。


「佐々木さん……きみだよ」

「え……?」

「前に言ったでしょ? 僕は、きみから好かれているんじゃないかって、勘違いしてたって。……勘違いでも、救われていたよ。だから、学校は休まなかった」

「葉村くん……」


それは、半分勘違いではない。

でも、そのことを今言うべきなのだろうか。私が今好きなのは、葉村くんではなくルカなのだ。

だったら、“前は好きでした”なんていまさら言ったところで、余計に彼を傷つけてしまうかもしれないし……。


「でも……佐々木さんは、ルカが好き」


ちらりと机に置いたバレンタインチョコの紙袋を一瞥して、葉村くんが投げやりな調子で呟く。


「ごめん、なさい……」


私のことを“唯一の光”と言ってくれた彼の気持ちに応えられないのは、胸が痛い。

でも……この気持ちだけは偽れないんだ。


「……じゃあ、僕はやっぱり死ぬしかないね」


葉村くんが、ふ、自嘲をこぼす。


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