スノウ・ファントム
「姉さんがいなくなった時点で、とっくにそういう気持ちにはなってたんだ。きみが心配してくれるから、なんとか踏みとどまっていて……でも、さすがにもうつらくなってきたよ。
――また、幽霊に大切な人を奪われるなんてさ」
おどけるように言う葉村くんの無理な笑顔が、胸を締め付ける。
私はどんな言葉をかけたらいい? 葉村くんのことを助けたいと願っても、ルカを好きなままの私では無理なの?
どうしたら正解なのかわからない。
でも、言いたいことを飲み込んで、あとから後悔するのは、もういやだ。
私の、正直な気持ちを伝えたい――。
「……葉村くん。死ぬなんて、言わないで……近くにいた人が、ある日突然いなくなっちゃう……そのつらさは、よく知っているでしょ? 私、やだよ……明日も明後日も、葉村くんに会いたいよ。春になったら、一緒に三年生になろうよ……っ」
感情的になりすぎて、言葉と一緒に涙もあふれてしまう。
私はごしごしと制服の袖で涙をぬぐい、それでもまだ浮かぶ涙で揺らめく視界のなかにいる、葉村くんを見つめる。
彼は苦し気な様子で斜め下の床を見ていて、何かと葛藤しているようだった。
「……それ、なら」
しばらく沈黙したあとで、葉村くんが声を絞り出す。
思いつめたような瞳が、私と、それから傍らの机の上の紙袋を交互に見る。
次の瞬間、静かな空き教室に響いた言葉はこうだった。
「その、チョコ……僕にくれたら、死ぬのをやめるよ」