スノウ・ファントム


「姉さんがいなくなった時点で、とっくにそういう気持ちにはなってたんだ。きみが心配してくれるから、なんとか踏みとどまっていて……でも、さすがにもうつらくなってきたよ。
――また、幽霊に大切な人を奪われるなんてさ」


おどけるように言う葉村くんの無理な笑顔が、胸を締め付ける。

私はどんな言葉をかけたらいい? 葉村くんのことを助けたいと願っても、ルカを好きなままの私では無理なの?

どうしたら正解なのかわからない。

でも、言いたいことを飲み込んで、あとから後悔するのは、もういやだ。

私の、正直な気持ちを伝えたい――。



「……葉村くん。死ぬなんて、言わないで……近くにいた人が、ある日突然いなくなっちゃう……そのつらさは、よく知っているでしょ? 私、やだよ……明日も明後日も、葉村くんに会いたいよ。春になったら、一緒に三年生になろうよ……っ」



感情的になりすぎて、言葉と一緒に涙もあふれてしまう。

私はごしごしと制服の袖で涙をぬぐい、それでもまだ浮かぶ涙で揺らめく視界のなかにいる、葉村くんを見つめる。

彼は苦し気な様子で斜め下の床を見ていて、何かと葛藤しているようだった。


「……それ、なら」


しばらく沈黙したあとで、葉村くんが声を絞り出す。

思いつめたような瞳が、私と、それから傍らの机の上の紙袋を交互に見る。

次の瞬間、静かな空き教室に響いた言葉はこうだった。



「その、チョコ……僕にくれたら、死ぬのをやめるよ」



< 112 / 144 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop