スノウ・ファントム
それから、十分ほどが経って、教室の扉が再び音を立てて開いた。
反射的に振り向いた先にいたのは、思っていた人物ではなかった。
「……葉村くん? どうしたの?」
忘れ物?と聞こうとしたけど、彼は最初からこの教室に何も持ち込んでいない。
目を瞬かせてぽかんとする私に、彼は驚くべきことを口にした。
「キナコ。……俺だよ、ルカ」
これは悪い冗談だろうか。姿も声も“葉村くん”でしかない彼を、怪訝な眼差しで見つめる。
よく見ると、いつもは顔を隠すようにして下ろされている前髪が、後ろに流されている。
その髪型だけは、葉村くんらしくないけれど……。
つかつかと教室内に入ってきた彼が、明るく話す。
「入れ替わったんだ、俺たち。……これで、俺はずっとキナコのそばにいられる」
「入れ、替わった……?」
そんなことできるわけが……と疑う反面、ルカならばできるかもしれない、と思う自分もいた。
それなら、今は葉村くんがルカの姿をしているということ……?
「本当に……そんなこと、できるの?」
半信半疑の私に、彼は自信ありげに語る。
「本当だよ。そうだな……俺の本当の名前は持田遥。一年前に事故で死んだ。仲のいい友達は同じクラスの山野で、塾の講師にはうざいハト胸がいて……」
自分の情報を事細かに語りだした彼に、私はさらに驚きを深める。
(本当に、ルカだ……)