スノウ・ファントム
ルカが何を言っているのか、よくわからない。
ただ、胸の中にいやな予感が渦巻く。
思わず彼の制服をつかんで詰め寄ると、思いつめたような瞳が私の方を向き、それからルカはこう告げた。
「死んでも誰にも気づかれないように、俺の肉体をあげたんだ。一度死んでいる俺が再び死を迎えた場合、その肉体は影も形も残らずに消えてくれるから。たぶん、葉村は今頃、屋上から……」
「うそ……そんな……!」
即座にルカから離れて、私は教室を出ようと踵を返す。
(さっき、また明日ねって……話したのに……っ)
そして勢いよく扉を開けた私の背中に、ルカが声を掛ける。
「キナコ……アイツを、助けるの?」
「当たり前だよ……! どうして、ルカは止めなかったの……!?」
大声で彼を責めると、ルカはとても悲しそうな瞳をした。
けれど何も言い返しては来ず、私は返事を待ってる暇なんかないと、ルカをその場に残して屋上に向かった。
(お願い、葉村くん……早まらないで……)
それだけを祈り、夢中で階段を駆け上がった。