スノウ・ファントム
キョウさんはとても親切なひとだった。
彼のお気に入りの場所、大きく広げた葉に雪を積もらせたスノウツリーの真下。
そこで俺は、スノウ・ファントムとしての生き方の講義を受けた。
「いいか、この世界で生きる俺たちにはいろいろな能力が備わっている。それは地上に降りて未練を解消するのに役立つものばかりだが、ひとつだけ使ってはいけない力がある」
「使ってはいけない力……?」
「ああ。それを犯したものは、この世界から追放されてしまうんだ。魂までも完全に消滅して……“無”になってしまう」
俺はごくりと唾をのんだ。
死んだらどうなるかなんて生きているうちは知らなかったけれど、今の自分にはこうして感情や意思が残っている。
それを思うと、“無”になる、ということには得体のしれない恐怖がある。
「それで……その、“使ってはいけない力”って?」
おそるおそる尋ねる。
キョウさんは足元の雪をさらりと手ですくい、それを俺の前にスッと差し出して告げた。
「……下界の季節や天候を無視して、雪を降らせることだ。雪がなければ地上に降りられないからといって、故意に降らせることは、禁じられている。理由は、自然界に与える影響が大きすぎるからだ」
「雪……」
……そうか。俺たちが自分勝手に雪を降らせていたら、春だろうが夏だろうがあらゆる場所が雪だらけになってしまう。
地上の人たちは、天変地異でも起きたのかと混乱するに違いない。
「……わかりました。天気を操るのはダメってことですね」
「そうだ。消えてなくなりたくなければな」