スノウ・ファントム
「俺が……ルカをそそのかしたんだ。葉村理久と身体の交換をすればいいと。理美の一番近くにいたのに、彼女の死を防げなかったきみのことを恨んでいたから……きみの命と引き換えに、ルカを生かそうとした」
恭弥さんは空を仰ぎ、夕焼けの眩しさに目を細める。
「……でも。いざ、きみの命が脅かされた瞬間……頭の中で、理美の声がしたんだ。“キョウちゃん、あの子たちを助けて”――と。それは、俺の妄想が作り出したものなのか、本物の理美が天国からそう呼び掛けてきたのかはわからないが……俺は、そのときやっと、自分の間違いに気が付いて……咄嗟に、雪を降らせたんだ」
マットのように柔らかく、私たちの身体を受け止めてくれた雪……あれは、恭弥さんが降らせてくれたものだったんだ。
私はてっきりルカの能力かと思っていた。
そう思ってちらりとルカの方を見ると、彼はなぜかとても悲しそうな表情でうつむいていた。
「結果的に助かったからよかったものの、俺のしようとしたことは許されることではない。それに……雪を降らせる力はあっても、それを実行するのは俺たちの世界ではタブーとされているんだ。だから……俺は、も、う……」
話している途中から恭弥さんの身体は半透明になり、輪郭がだんだんぼやけてくる。
タブー……その力を行使してしまった恭弥さんは、いったいどうなるというの?
「キョウさん……っ! 俺もやっぱり、キョウさんと一緒に……っ」
我慢ができなくなったように、ルカが恭弥さんに縋る。
「……さっき上でさんざん話しただろう? 力を使ったのは俺なんだから、お前は天国に行く権利があると。神の慈悲で、最後に元の姿に戻してもらえたこと、地上に降りて弁明の機会を与えられたことだけで、俺は十分だよ」