スノウ・ファントム
ふわりと、恭弥さんが微笑む。その笑顔は、ルカの笑うときとよく似ていた。
ふたりはきっと、同じ世界で、兄弟のように過ごしていたんだろう。
焦ったように彼を引き留めるルカと、ルカを優しくたしなめる恭弥さんを見ていたら、自然とそれがわかった。
そしてきっと……恭弥さんとルカは、もう二度と会えないんだ。
ほとんど消えてしまいそうな恭弥さんは、最後に、葉村くんに向きなおる。
「長い間、きみを苦しませた。俺が、理美を守ってやれる男でなかったのが悪いのに……」
「そんな……いいんです。姉は心からあなたを愛していました。だから、僕は一度会ってみたかったんです。姉の彼氏である“キョウちゃん”に。……思った通りの、優しい人だった」
そんなことを言われるのは予想外だったのか、恭弥さんは言葉に詰まって、それから眉根を寄せた。
しばらくすると、涙で瞳をきらきらとさせた恭弥さんが、葉村くんに告げる。
「今、きみの姿に理美が重なって見えたよ……ありがとう。最後に、彼女に会わせてくれ、て……」
とうとう輪郭もなくなった恭弥さんは、最後に小さな雪の粒となり、風にさらわれてしまう。
その光景は、春に舞う桜の花びらのように美しかった。
「キョウさん……」
切なげに呟いたルカ。
その横顔に、私は別の悲しい予感を抱いて、ひとりうつむく。
(さっき……恭弥さんはルカのこと、“天国に行く権利がある”と言っていた。今はここにいるけれど、きっと、ルカはもうすぐ……)