スノウ・ファントム
重たい空気が流れる中、ザッ、と靴を鳴らして葉村くんが私とルカの間に立った。
「僕は、帰るよ。……今日のこと、姉さんに報告したいから。それと……ふたりとも、本当にごめん。謝っても、もう取り返しがつかないかもしれないけど……それでも、ごめん……」
深々と頭を下げられて、私とルカは慌ててしまう。
葉村くんは悪くない。
彼を追い詰めてしまったのは、私の不用意な発言のせいもあったんだから……謝ってもらうこと、ないのに。
「私は……葉村くんが助かったこと、それだけでうれしい。だから、頭を上げて?」
「ああ。……今さら誰が悪いとかナシにしよう。俺も、これでよかったと思ってるんだ。……たとえ、二度と地上に降りられなくなっても」
おずおずと身を起こした葉村くんだけど、今度は彼の方が心配そうにルカを見つめる。
「俺、天国に行けることになったんだ。だから、そのこともお姉さんによろしく伝えておいて? きっと、あっちで会うと思うんだ」
ルカの瞳に、嘘をついている様子はない。
こうなることは予測していたけれど、すでに決心がついているようなルカの晴れやかな笑顔が、私には逆に切なく感じられてしまう。
この世にはもう、思い残すことはない。
そう言われているようで――。
「わかった。……じゃあね、ルカ」
「ああ。そういえばお前と入れ替わったとき、その前髪すごい邪魔だったから切った方がいいと思う」
「……大きなお世話」
別れの挨拶にそぐわない、そんな軽いやり取りを最後に、葉村くんは校舎裏から去っていった。