スノウ・ファントム


「……ダメ。キナコを連れていきたい以上に、キナコに死んでほしくないから」


静かに首を振り、ルカが私を諭す。

その答えが正しいことだとわかっていても、切なくて胸が張り裂けそうだ。

私たちは住む世界が違うんだって、現実を突きつけられる。

恭弥さんの後を追おうとした葉村くんのお姉さんの気持ちが、今なら少しわかる気がする。


「ルカ……本当に、もう、会えないの? 来年、雪が降っても……?」

「うん。俺やキョウさんのいた世界はさ、閉じられてしまうことになったんだ。こうして、幽霊と人間が触れ合うことは、やっぱりよくないって、神様が思ったみたいで」

「よくないって……どうして?」


亡くなった人ともう一度会いたい。

それは、生きている誰もが願うことじゃないのかな。

瞳を潤ませてルカを見上げると、彼もまた涙を浮かべて、私を見つめ返す。


「こうして、恋に落ちたりしたら……悲しい気持ちしか、残らないだろうって」

「そんな……っ。私、悲しいけど、それだけじゃないっ」

「わかってるよ。……でも、こうして、涙を流す人が増えるって、神様が言ってた」


はらはらと、私の頬を流れる涙を、ルカの親指がそっと拭う。

確かにこの涙は、ルカと出会わなければ流れなかったかもしれない。こんなに胸は痛くならなかったかもしれない。

だからって……私は、ルカと出会わなければよかったなんて、少しも思わないよ。


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