スノウ・ファントム
「キナコ……ごめん。もう、あまり時間がないみたいだ。そろそろ……最後の鍵を、くれる?」
気が付けば、夕陽はほとんど沈んでいて、辺りはすっかり暗くなっていた。
「最後の、鍵……?」
「うん。……俺が天国に行くにはさ、それがなきゃダメなんだ。さっきも聞いたけど、答えもらえなかったから……もう一度、聞くね」
ルカの唇が、ゆっくりと動いて、私に問う。
「キナコは今……俺のこと、どう思ってるの?」
「――っ」
いま、言わなきゃ、きっとこの先ずっと、伝えるチャンスは来ない。
でも、この言葉を伝えてしまったら……ルカは、天国に旅立つ。
「言えない」
「キナコ……」
「言いたくないよ……だって、まだ、ルカといたい、私……っ!」
泣きじゃくる私を、ルカがそっと引き寄せてその腕に抱く。
私は、こんなにドキドキしているのに……ルカの胸に耳をくっつけても、何の音もしない。
「ゴメン……本当に。普通の人間じゃなくて、ゴメン……」
悲痛な声で、ルカが謝る。
彼の胸の中で、私はふるふる首を振った。