スノウ・ファントム
きゅうっと、胸が切なく音を立てる。
ひとつひとつのルカの言動が、名残惜しさを大きくする。
「キス……していい?」
そんな予告をされ、どきりとしながらも小さくうなずく。
「うん……」
彼の顔が近づいてくるのを感じて、そっと目を閉じた。
そうして、唇の熱が触れるのをじっと待っていたけれど……。
「ルカ……?」
目を開いた時には、彼の姿はどこにもなかった。
いつしか雪も止んでいて、澄んだ冬の夜空にはいくつかの星が瞬いている。
きっと、彼は面と向かってさよならを言えなかったんだ。
私がまた泣くと思って……だから、何も言わずに……。
「……っ。ルカ……また、会おうね。いつか、ぜったい……」
頭上に散らばる星のうちのひとつ。いっそう輝く星に向かって、私は叫んだ。
そのときには、私はおばあちゃんかもしれない。
でも、あなたはきっと私を見つけてくれる。
そして、屈託のない笑顔で言ってくれるんだ。
“キナコ”――って、そんな、変な呼び名を、楽しそうに。