スノウ・ファントム


腕組みをして、ううん、と悩み始めてしまった私を、ルカはクスクス笑いながら見ていた。

でも笑っているだけで何も教えてくれることはなく、そのまま歩いているうちに駅に着き、ルカと一緒に電車に乗った。


乗り込んだ車両は夕方のラッシュで少し混んでいたけれど、ルカが私の体を囲うようにして立ってくれたから、人に押しつぶされることはなかった。

電車に揺られている約二十分のあいだ、至近距離にいたルカの観察しかすることがなくて、透けるような肌やつやつやの髪や、時々私に“大丈夫?”と問いかけてくる優しい瞳や、そのくせ男っぽい喉仏ばかり見ていたら、なんだか胸が詰まったように苦しくなってしまった。

そして地元の駅のホームに降り立ったとき、ありがとう、とお礼を言おうとしたのに、言葉がのどに引っかかって出てこなかった。


(なにこれ……なんか、緊張してるみたい、私。ただ、ありがとうって言いたいだけなのに……)


自分で自分に戸惑いながら、困ったようにルカを見つめると、頭の上にぽん、と大きな手が乗せられて、微笑を浮かべた彼が言う。


「どういたしまして、キナコ」


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