スノウ・ファントム
「きれい……ありがとう、こんなに素敵なもの」
「いいえ。俺、どーしても、頭から雪が離れなくてさ。さっきの雪だるまマジックもすごかっでしょ? もう人間だから、タネも仕掛けもあるんだけどね」
「ホント……? 教えてよ、タネ」
「だーめ。あ、それか、俺の心を読んでごらん?」
私にそんなことができるわけないと知っていて、挑発するように言うルカにムッとする。
いや……待って。考えよう。
今、ルカが何を思っているのか。
「……人間になったんだから、早く何か食べたい」
「げ。キナコってエスパー!? もしくは幽霊!?」
「……それってルカにだけは言われたくない台詞」
ふふ、とどちらからともなく笑い出し、私たちはしばらくその場で笑いあっていた。
話したいことはいっぱいあるはずなのに。
ただ、彼の笑顔がこんなに近くにあることを、ずっとかみしめていたくて。
「ねえ、キナコ」
「なに?」
ひとしきり笑って、目の端に浮かんだ涙を拭っていたら、急に抱き寄せられて、瞳を覗かれる。
ドキ、と心地よく高鳴った胸が、何かを期待してる。
ルカもきっと、それをわかっている。
今だけは、私たち――お互いの心がわかる。
「あの別れの日、ちゃんとできなかったから……今度こそ、キスをしよう?」
「……うん」
やっと重ねることができた唇は、緊張したように震えていたけれど、キスを繰り返すうち、柔らかくほぐされていった。
その時間は、甘くて、切なくて……新たに浮かんだ涙が、頬を濡らすのを感じた。
傍らでは、崩れた雪だるまがゆっくり溶けていく。
コロンと転がったビー玉が、春の柔らかな光を映して、きらきら輝く。
私たちは、もう雪に縛られたりしない。
この胸元にいつでも輝く雪がある限り。
どんな季節だって、これからは一緒に迎えられるんだーー。
END