スノウ・ファントム
今日初めて話したばかりなのに、会話の内容に全く遠慮がない山野にちょっと引きつつ、俺はしれっと答える。
「ないよそんなの。名前も顔も知らない女子を好きになるやつがどこにいるんだ」
「それもそっか。……でも、進展あったら教えろよな!」
「だからないって」
その後も山野と大して実のない会話をしながら、俺たちは塾を出て駅まで一緒に帰った。
(明日からは、学校でも山野と話すのか。あいつのテンションについてくの疲れそう)
反対方面のホームに向かった山野と別れ、一人乗り込んだ電車でそう思う。
でも決して憂鬱なわけではなく、無味無臭だった俺のテキトー生活がちょっとだけ風味づけされた気がした。
*
「おい持田! なんでまた俺がお前の代わりに女子を振らにゃならんのだ!」
山野とつるむようになってひと月ほど経った、十月の中頃。
昼休みの屋上で壁にもたれて座り、ぽかぽかした日差しと心地よい風に吹かれていた俺のもとに、山野がぷりぷりしながらやってきた。
「……また来たんだ」
「勘弁してくれよ、これで七人目だぞお前」
山野は吐き捨てるように言うと、どかっと隣に胡坐をかいた。