スノウ・ファントム


実は、俺が特定の女の子をこんな風に思うことは初めてなのだ。

中学の時に周囲にいた女子は気が強くて、色白でひょろっとした虚弱っぽい俺をバシバシ叩いては『持田って女子より女子っぽいよねー』なんて失礼なことを言うヤツばっかりだったし。

高校では最近まで女子どころか男子とも関わらずにいたから、もちろん恋愛なんて縁があるわけもない。

つまりこれは俺の遅すぎる初恋で、しかも相手は他校生ときてる。

右も左もわからず、積極的にアプローチできなくて当然じゃないか。

そりゃ欲を言えば、声をかけて、連絡先を交換して、彼女と色々な話をしてみたい。

でも、自分のヘタレ度は自分が一番よく知っているから、そんな行動には出られないだろうと最初から諦めているのだ。


(でもやっぱ、名前くらい、知りたいよな……)


そんなささやすぎる願望を抱きながら、俺は澄んだ秋空を見上げた。







「じゃあ、今から80分。はじめっ」


その日、予定通りに行われた模擬試験。

いつもより緊張感の漂う教室の中、ハト胸の号令がかかると、皆いっせいに問題用紙をひらいてシャーペンを走らせた。

俺はみんなよりワンテンポ遅く同じ行動をしながら、ちらちらと前方のあの子の様子をうかがっていた。


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