スノウ・ファントム
実は、俺が特定の女の子をこんな風に思うことは初めてなのだ。
中学の時に周囲にいた女子は気が強くて、色白でひょろっとした虚弱っぽい俺をバシバシ叩いては『持田って女子より女子っぽいよねー』なんて失礼なことを言うヤツばっかりだったし。
高校では最近まで女子どころか男子とも関わらずにいたから、もちろん恋愛なんて縁があるわけもない。
つまりこれは俺の遅すぎる初恋で、しかも相手は他校生ときてる。
右も左もわからず、積極的にアプローチできなくて当然じゃないか。
そりゃ欲を言えば、声をかけて、連絡先を交換して、彼女と色々な話をしてみたい。
でも、自分のヘタレ度は自分が一番よく知っているから、そんな行動には出られないだろうと最初から諦めているのだ。
(でもやっぱ、名前くらい、知りたいよな……)
そんなささやすぎる願望を抱きながら、俺は澄んだ秋空を見上げた。
*
「じゃあ、今から80分。はじめっ」
その日、予定通りに行われた模擬試験。
いつもより緊張感の漂う教室の中、ハト胸の号令がかかると、皆いっせいに問題用紙をひらいてシャーペンを走らせた。
俺はみんなよりワンテンポ遅く同じ行動をしながら、ちらちらと前方のあの子の様子をうかがっていた。