スノウ・ファントム
解答用紙の中で、名前を書く欄は一番右上にある。
書いている最中は体に隠れて見えないだろうけど、書き終わったら少し見えるんじゃないか。
そんな可能性の低い望みに賭けて、俺は試験の問題そっちのけで注意深く彼女を観察していた。
すると――。
(見えた! ……木、菜子。キ、ナコ)
たぶん菜子が名前で、苗字は大木とか松木とか、とにかく最後に木がつくんだろう。
(でも……キナコちゃん、って思うと、なんか、かわいくね?)
一部とはいえ彼女の名前がわかり、そこから勝手に愛称をつけて勝手に満足していた俺は試験中にもかかわらずにやけてしまったらしい。
目ざといハト胸が俺のもとにつかつかと歩いてきて、まだ名前すら書いていなかった俺の解答用紙をびしっと指さす。
「持田。やる前から諦める者に勝利の女神は微笑まない。きみはやればできる! 私はそう信じているよ」
(相変わらず暑苦しいことを……。でも、カンニングを疑われなかっただけマシか)
「はい。すいません」
反省している振りでわざとらしく腕まくりをしながら名前を書き始めた俺を見て、ハト胸はウンウンと頷き、机を離れていった。