スノウ・ファントム
言い終わってから、切実に訴えるにしては説得力のない理由だと気づく。
(だいたい塾は勉強する場所なのに、楽しい、ってなんだよ)
急におとなしく黙り込むと、母親はなんだかいやらしく細めた目でまとわりつくような視線を送ってきた。
「……わかった。彼女できたんでしょ」
ごふっ!と咳込みまたしてもエビフライの破片が口から飛び出しそうになるが、なんとか堪えて目を白黒させながら答える。
「ち、ちが……」
「あ、じゃあ好きな子か。ふうん、そう~。それじゃ辞めたくないわよねぇ」
「だから違うって! ごちそうさま!」
まだ皿にはエビフライが一尾残っていたけど、母親からの追求がうざすぎて、俺は乱暴に箸を置いてダイニングを出ていく。
そして二階の自室にこもると、倒れこむようにしてベッドに仰向けになった。
図星をつかれたせいで火照る頬をごしごしと両手でこすったけど、それでもやまない胸の高鳴りに身体中を支配されていく。
(なんか……俺、こんなに好きだったっけ、あの子のこと)
ただ毎日眺めているだけなのに、“気になる”レベルだった最初の頃より、確実に成長している恋心。
それはこうして家にいるときでも、俺の脳裏に彼女の姿を俺に思い描かせ、同時に心臓をきゅっと縮ませる。
「でも……彼女のほうは……俺のことなんて知らないんだろうな」
そうだとしても何も行動を起こさない自分が悪いのに、俺はさも切なげにそう呟くと、はあ、と悩まし気なため息をこぼすのだった。