スノウ・ファントム
くるりと振り返って、今は誰も座っていないその席をしばらく見つめて記憶をたどる。
確かに、今目の前にいる彼と同じ制服の男子がいつもそこに座っていた時期があったような気はする。
けれど今では別の人が座るし、その男子とは特に話したこともないから、顔なんて覚えていない。
「あんまり、ハッキリとは……」
正直に答えると、「だよなー」と力なく笑った彼。
そのとき、教室のドアが開いて、講師の先生が入ってきたので、席を立っていた生徒たちが一斉に自分の席に戻っていく。
そのざわつきの中、私に話しかけていた男子が名残惜しそうにしながら去り際に言う。
「俺、山野っていうんだけど、塾のあと、少し話せないかな」
彼の瞳は切実な色を浮かべていて、とても断れる雰囲気ではなかった。
「山野くん……。うん、少しだけなら」
話って、なんだろう。私の後ろに座っていたっていう男子のことかな。
一年前まで、と言っていたから、もう辞めちゃった人なんだろうけど……。
(一年前……か)
『俺はずっとキナコを見てたんだ。それこそ、一年以上前から』
ふいに、ルカの声が脳内で再生されて、胸がかすかにざわめく。
(関係……ない、よね)
一年前まで、と一年前から、は似ているようで全然違うし。
でも、山野くんとルカとは同じ学校だし、ルカは一年前の何かがきっかけで人の心の声が聴こえるようになったんだよね……。
関係ないと思いつつも、ルカのことが繰り返し頭の中をぐるぐると回り、私はその日授業をずっと上の空で聞いていた。