スノウ・ファントム
「どうだ? 佐々木菜子とかいう女は落ちそうか?」
「うーん……どうですかね。とりあえず、やれることはやってますけど……」
「やはり邪魔なのは葉村理久だな」
「……ですね」
今日も二人、木の下に腰を下ろして作戦会議。
俺はキョウさんの冷たい一言に同調しながら、俺の告白に対して一生懸命悩んでいたキナコを想う。
(悩ませて、ごめん……でも、俺はもう、後悔したくないんだ)
足元に映る下界には、昨日降った雪が積もっている。その厚さを見る限り、今日はあっちにいられる時間が長そうだ。
「キョウさん、俺、また下界(した)に行ってきます」
「ああ。せいぜい未練減らして来い。ただ、どんなに緊急時でも俺たちの禁忌(タブー)をおかすことだけは許されないからな」
「……わかってますよ」
キョウさんの忠告を背中で受け止めながら、俺は雪原の果てにある、下界に続くらせん階段まで歩いていく。
(キナコは……俺がしようとしていることを知ったら、どう思う?)
一歩一歩、下界に近づいていくたび、胸が古びた床のように音を立てながら軋む。
好きな子のそばにいたいからと、道徳心を無視して行動するのは、果たして正しいことなのか。
心の中で葛藤する、遥の気持ちとルカの気持ちが入れ替わり立ち替わり、俺を苦しめる。
でも、俺にはもう他に方法がないんだ。
どんなに汚い手を使っても、キナコは必ず手に入れてみせる。