スノウ・ファントム
いつものように、俺の“見てるだけで幸せ”的な思いを土足で踏みにじってくる山野に、俺はむすっとして言い返す。
「虚しくないよ、楽しいよ」
「……あ、そ。じゃあほかにキナコちゃんとはどんなことしたいわけ?」
「そうだな……塾から家まで送ってあげるとか。欲を言えば手をつなぎたいけど」
「手をつなぎたいって……幼稚園児レベルか!」
何を言っても、山野からは“幼い”とか“ヘタレ”だとか、そういう評価しか出てこなくて、俺はすっかり不機嫌になってしまった。
(もう山野には何も教えない)
本当は、手をつないで帰った後、別れ際にキスだってしたい。
でも、それを言うのが照れくさくて(特に相手が山野だし)、手をつなぐって言っただけなのに。
(キナコと、キス……)
ぽわん、と、勝手に具体的な妄想映像が脳内に広がりそうになり、俺は慌てて首を振った。
やめろやめろやめろ。これ、エスカレートしたら山野が言ってたピンク色のやつになる。
「……何赤くなってんだよ」
「べ、別に……」
俺は不自然に山野から顔を背け、動揺しているのを必死で隠す。
そう、俺だって山野の言うところの健全な高校生男子なのだから、そういうことを考えないわけがなかった。
ただ、山野みたいに面白おかしくは話せないし、自分の口からそういう台詞が出るのはなんだか似合わないような気もして、開き直れないだけだった。