スノウ・ファントム
つまり、キナコの気持ちは少しも俺の方に向いていない。
こうして会話を重ねても、手をつないでも、ひとつの傘のなかで同じ空気を共有しても。
それは、生前の俺の未練を解消しているだけ。
(結局、俺の自己満足……?)
空の上から下界を見下ろしているときは、もっと強い自分でいられるのに。
いざ、キナコのそばに降りてきて彼女の心に触れていると、思い描く理想の〝ルカ〟の姿で振る舞えなくなってしまう。
『そのうち、キナコは俺だけしか見えなくなるから』――昨日の夜、そう口を滑らせてしまったのも、キナコの気持ちが思い通りに動いてくれないじれったさからだった。
(……人の気持ちが思い通りにならないのは、当たり前なのにな)
俺はルカになって、色々な能力――なかでも人の心の中が読める能力を得たことで、なにか勘違いしているような気がする。
許可も得ずに手を握ってみたり、どぎまぎするとわかっていてからかうような台詞を吐いたり、彼女には別に好きなやつがいると知っていながら「チョコが欲しい」なんてわがままを言ってみたり。
どれも全部、自分のためだけの行動で。
(……俺、キナコを困らせてるだけだ)
そう気が付くと、途端に自信が失われて、キナコと並んで歩いていた俺の足は止まった。
「ルカ……?」
たぶん、俺は暗い顔をしているのであろう。心配そうに振り返ったキナコに、俺は何でもないという風に首を横に振る。