スノウ・ファントム
「さっきのチョコの話……忘れて? やっぱ、バレンタインはちゃんと好きな人にあげなきゃだめだもんね」
「え……?」
「だいたいその日雪が降るかどうかもわかんないし……ホント、適当なこと言って困らせてゴメン」
不自然なくらい明るい声で言いながら大股でキナコを追い抜かすと、俺は笑顔作って彼女のほうを振り向く。
「さ、暗くなる前に早く帰――」
「……いいよ! チョコ!」
今まで、首に巻いたマフラーに顎をうずめて俯きがちだったキナコが、急にパッと顔を上げてそんな宣言をしてきた。
(な……なんで、急に。心の声は何も聴こえなかったはずだけど……)
予想外のキナコの発言に面喰らって目を瞬かせていると、彼女は寒さのせいなのか照れているのか、頬をりんごのように赤くして一生懸命な様子で話す。
「ハートで、苺のやつがいいんだよね! わかった! 私、作るから」
「い、いいよ。無理しなくて」
「無理じゃないよ。……私が、あげたいの。ルカに」
キナコはどうしてか涙目で、心にトクン、と温かいものが流れこんでくる。
何も言えずにキナコを見つめると、小走りで駆け寄ってきた彼女が、冷えた俺の手に小さな自分の手を重ねた。