スノウ・ファントム
「――あ、やっぱいたぞ、佐々木さん」
扉を開いてそう言ったのは、クラスメイトの男子だった。ほかにも連れがいるのか、廊下の方に向かって話しかけている。
なんとなく胸がざわつくのは、目の前にいるのが葉村くんをいじめているリーダー格の男子だからだろう。
そんなクラスの中心的存在の彼が、同じ教室内にいても彼とは対照的に目立たない存在である私に、何の用なんだろう。
「あのさ、ここの鍵持ってるよね? ちょっと貸してくんない?」
「鍵……? う、うん」
プリーツスカートのポケットから鍵を出して、彼の手のひらに乗せる。
「どーもありがと。あのさ、実はきみに告白したいってヤツがいるんだ」
「え……?」
「だから、しばらくふたりきりにしとくね」
そう言って彼がにっこり笑ったのを合図にしたように、今まで半開きだった扉が急に全開になった。
「おら、さっさと歩け」
また別の男子の乱暴な声とともに、無理やり連れられて目の前に現れたのは、葉村くんだった。
(なに、これ……告白とか二人きりとか、なんだかすごく嫌な予感がする)
逃げ出したい衝動に駆られながらも、唯一の出入り口はふさがれているから、私は立ちすくむことしかできない。