スノウ・ファントム
「あの……葉村くん。携帯とか、持ってない、かな」
自分のがあれば一番よかったけれど、あいにく私のスマホはカバンに入れたまま、教室にある。
「誰か、友達に電話できれば……と思うんだけど」
そう続けても、全く反応を示さない葉村くん。
膝を抱えたまま微動だにせず、明らかに私を無視しているようだ。
(……何か、言ってよ)
次第に心細くなってきて、勇気を出すと決めた心が簡単に折れそうになる。
(こんなとき、ルカの力があればいいのにな……)
ふと窓の外を見ると、空の色は薄い水色。朝からずっと穏やかに晴れていて、雪なんて降る気配は全くない。
ふう、とため息をついて床に視線を落とす。でも、すぐにはっとしてもう一度窓の方を見た。
「葉村くん! あそこから出れるよ!」
少し高い場所にあるけれど、真下にある棚に上れば簡単に届くだろう。
幸いここは一階だからけがの心配もないだろうし。
そんな自分のひらめきに心が活気を取り戻したのもつかの間。
葉村くんは相変わらず無言のままで、私一人でしゃべってなんだかバカみたいに思えてくる。
彼は今、いったい何を考えているの……?
それを知りたくても、私にルカのような力はない。
だから、傷つくこと覚悟で、直接聞いてみるしかないよね……。