スノウ・ファントム


「……私に、話しかけられるの、迷惑……?」


おそるおそる声を掛けると、葉村くんはのっそりと顔を上げて、前髪で顔を隠しながらもかすかに首を横に振った。

どうせまた無視されるんだろうと予想していた私は少し驚いて、けれど彼の答えにほっとした。


(迷惑……ではないみたい。それなら、もう少し粘っても平気かな……?)


「窓なら、中から鍵開けられるから、出てみない? このままここにいても仕方ないし……」


前髪に隠れた表情がなんとか見えないかと、彼の顔をのぞき込むようにして尋ねる。

すると、葉村くんの瞳が少しだけ揺れて、彼はようやく声を発した。


「……佐々木さんだけそうしたらいいよ。僕はここにいる」


やっと返事をしてくれたのはうれしいけれど、彼を残して自分だけ脱出するなんてそんなことはできない。


「どうして?」

「……別に。理由なんてない。何もかもどうでもいいってだけ」


何もかもどうでもいいって……どうしてそんなに投げやりなの。

一瞬腹を立てそうになって、けれどすぐに気がついた。


(彼をこんな風にしたのは、私たちのせい……?)


彼がクラスで孤立し始めて、約半年。

そんなに長い間、息の詰まるような教室で、じっと自分に向けられるたくさんの悪意に耐えていたら、色々なものが麻痺してしまってもおかしくはない。


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