スノウ・ファントム
直接は悪意を向けていなくても、彼を救おうとしない私のような臆病者だって、同罪だ。
私は葉村くんの正面に正座で座り直し、スカートのひだをぎゅっと握りながら、彼に頭を下げた。
「ごめんなさい……いつも、見てるのに。何もできなくて、ごめんなさい……」
謝ってもらったって、葉村くんは余計に腹が立つだけかもしれない。
それでも、今ここで謝らなければ、私はずっと後悔する気がした。
自分の情けなさに下唇をぎゅっと噛んで俯いていると、耳に入ってきたのは葉村くんの申し訳なさそうな声。
「……そんな、謝らないで。知ってるよ、佐々木さんがいつも、僕のこと心配してくれてるの」
「え……?」
顔を上げると、サラッと揺れた葉村くんの前髪の隙間から、黒目がちの優しい瞳が私を見つめている。
「僕、ひどい悪口とか、時々は物をぶつけられたりするときがあるんだけど、そういうとき、必要以上に傷つかないよう心を閉ざして何も考えないようにするんだ。そうすると、不思議と感覚だけが敏感になって、わかるんだ。本気で自分を心配してくれている眼差しの存在があること。それで、その出所を辿ると、いつも佐々木さんがそこにいる」
こんなに饒舌に喋る葉村くんは初めて見た。
そのことに驚きつつ、自分がずっと葉村くんを見ていたのがばれていたんだと思うと、恥ずかしさを隠せない。
「……でも、僕の方こそ最近きみの方ばっかり見てたみたいでさ。それが奴らにばれて、からかわれて、馬鹿にされて、突然“告白しろ”だなんてけしかけられて……」
だから、こんなことになってしまった。巻き込んで本当にゴメン。
葉村くんは苦し気に眉根を寄せ、私にそう謝った。