スノウ・ファントム
「……俺の無念を晴らすためにも、お前は作戦通り、今まで誰もできなかった、“幽霊という存在からの脱却”を目指してくれ。……葉村理久には俺も恨みがある。奴はどうなってもいい」
淡々と話したキョウさんだけど、葉村理久と彼につながりがあったなんて初耳だ。
「キョウさんの彼女だった女性と、葉村理久には何か関係が……?」
「……弟なんだよ、奴は。俺の愛した女性、葉村理美(りみ)のな」
そう告げたキョウさんの横顔は、さっきとほとんど変わらないように見えて、けれど静かな怒りのオーラを纏っていた。
その迫力にぞくりとしながら、彼が俺に協力的な理由がやっとわかった気がした。
(キョウさんも俺と同じで、葉村理久を邪魔者だと思っているんだ)
そのとき強い風が吹いて、キョウさんの白銀の髪が後ろになびき、一瞬だけ見えた青い瞳からきらきら輝く雫が辺りに舞い散った。
どこにもいけない悲しみを滲ませた、冷たい氷のような彼の涙……。
彼はそれを見せまいとするかのようにスッと立ち上がると、風でガサガサと揺れるスノウツリーの枝に触れながら言った。
「……今夜は雪になる。彼女に会いに行け、ルカ」
俺は黙って頷き、雪原の果てを目指してゆっくりと歩き始めた。