スノウ・ファントム





雪が降り出したのは思ったより遅くて、キナコの家の前に着いたときには日付が変わっていた。


(さすがに寝てるよな……)


そう思いながら、目を閉じ、キナコの気配が家のどこにあるのかを探す。

この能力も、キョウさんのいるあの白い世界で得たものだ。

しばらくじっと意識を集中させていると、キナコは意外な場所でまだ起きているようだった。


「台所……?」


念のため彼女の両親の気配も探ったけれど、二階の寝室で寝静まっているようだ。

こんな時間に会いに行くのは初めてだし、迷惑がられるかもしれないけど……。


(……ダメだ。どうしても会いたい)


俺は形ある幽霊だけど、壁抜けだってちょろいもんだ。

小さな一軒家の一階の角、窓がぼんやりと明るくなっている場所をめざして、俺は迷わず壁の中へ入っていった。




「え、え、え。どうしてキレイにならないの、これ……温度ちゃんとやったよね……?」



まず、聴こえてきたのはキナコの泣きそうな声。そしてまさに今料理中です、という感じの金属の音がする。

部屋中に漂っているのは、お菓子のような甘い匂い。


(なんか、美味そーなの作ってる)


当たり前だけど、音もなく背後に現れた俺の姿にキナコは気付いていない。

彼女は、料理のレシピ本らしきもののページを忙しくめくりながらなにやら焦っていて、小動物みたいで可愛い。


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