スノウ・ファントム
*
雪が降り出したのは思ったより遅くて、キナコの家の前に着いたときには日付が変わっていた。
(さすがに寝てるよな……)
そう思いながら、目を閉じ、キナコの気配が家のどこにあるのかを探す。
この能力も、キョウさんのいるあの白い世界で得たものだ。
しばらくじっと意識を集中させていると、キナコは意外な場所でまだ起きているようだった。
「台所……?」
念のため彼女の両親の気配も探ったけれど、二階の寝室で寝静まっているようだ。
こんな時間に会いに行くのは初めてだし、迷惑がられるかもしれないけど……。
(……ダメだ。どうしても会いたい)
俺は形ある幽霊だけど、壁抜けだってちょろいもんだ。
小さな一軒家の一階の角、窓がぼんやりと明るくなっている場所をめざして、俺は迷わず壁の中へ入っていった。
「え、え、え。どうしてキレイにならないの、これ……温度ちゃんとやったよね……?」
まず、聴こえてきたのはキナコの泣きそうな声。そしてまさに今料理中です、という感じの金属の音がする。
部屋中に漂っているのは、お菓子のような甘い匂い。
(なんか、美味そーなの作ってる)
当たり前だけど、音もなく背後に現れた俺の姿にキナコは気付いていない。
彼女は、料理のレシピ本らしきもののページを忙しくめくりながらなにやら焦っていて、小動物みたいで可愛い。