スノウ・ファントム
◇裏側
「今日、授業中に居眠りをしていたね。この調子だと、期末試験もあまりできなかったのではないか? どうも最近の佐々木は勉強以外のことに気を取られているように見えて仕方がないんだが、何か心配事があるなら言ってみなさい」
「……すみません。そんな、先生に聞いてもらうほど大したことじゃないんです。今度からは、心を入れ替えますから」
塾のあと、個別指導に使われる教室の一角で、私は講師の先生と一対一で話していた。
目の前にいるのは、この塾で一番苦手な講師、英語担当の須藤先生。
バレンタインを数日後に控え、睡眠不足が続いて授業に身が入らない私を見かねて呼び出したみたいだ。
英語の発音は上手いし、教え方も悪くはないけど、教育熱心すぎるところについていけなくて、いつも一歩引いた態度で接してしまう。
(……あと、胸板が厚すぎて、鳩みたいだし)
真剣な須藤先生に悪いと思いながらも、彼の目ではなくいつでもふんぞり返ったように見える胸のあたりばかりに視線を固定していると、彼の不満そうな声が降ってきた。
「たまにいるんだ。遊びや部活や恋愛のほうが勉強より面白いからと、そっちばかりに意識を集中させてしまう者が。もちろんそういったことも高校生にとって大事なことだとは思う。でも、親御さんはきみたちの将来を思って、お金をかけてこの塾に通わせているんだから、その辺りをもう少し考えてみてくれないか」
そんなこと、わかってる。この人はいつも、誰でも思いつくような当たり前のことしか言わないのだ。
教育熱心ならもうちょっと心に響くお説教をしてくれればいいのに、なんて生意気に思いつつ、殊勝なふりでコクンとうなずく。
それでもまだ何か言いたそうな須藤先生はしばらく私をじっと見つめると、腕組みをして何か考え始めてしまった。