スノウ・ファントム
「……じゃあ、さっそくやろう」
屋上で葉村に追いついた俺は、焦り気味にそう声を掛ける。
しかし葉村は俺に応じることなく、目の前にさっき持っていた紙袋を見せつけるように掲げた。
「……なんだよ、これ。まさかとは思うけど、女の子にチョコもらって、やっぱり俺との約束破りたくなったんじゃないだろうな」
邪魔な紙袋を手でどかして葉村の顔を覗く。
しかし、俯く彼の前髪が邪魔して、全く表情が見えない。
怪訝に思っていると、俺の耳に信じられない言葉が届く。
「これ……佐々木さんに、もらったんだよ」
一瞬、意味が分からずに、俺は固まる。
「たぶん、ルカに渡す予定だった物なんだと思うけど……佐々木さん、それを、僕にくれたんだ」
そこでようやく顔を上げた葉村は、誇らしげな笑みで俺を見据えた。
(なんで……なんで、そんなことになって……)
目を見開いて戸惑う俺に、葉村は追い打ちをかけるように、紙袋の中身をわざわざ取り出して見せる。
小さな箱の中に、ふわふわした細い紙が敷き詰めてあって、そこにたったひとつあるのは、ハート形の苺チョコレート。
淡く小さなピンク色のそれはキナコの純粋な気持ちを象徴しているようにも見え、それが渡った相手が俺ではなく葉村だったということに、ショックを隠し切れない。
(つまり……消えるべきなのは、俺……?)
突きつけられた現実と、屋上を照らす西日の眩しさにめまいを覚えて、倒れそうになる。