スノウ・ファントム
(ルカ……変な人……)
ゆっくりと動き始めた電車の中で、ムスッとしたまま思う。
だいたい、なんでいつも私の近くに現れるんだろう。学校が近いから? 同じ学校に友達いないのかな?
あれこれ考えるけれど、昨日と今日、少し話しただけのルカのことばかり考えてしまうことがなんだか悔しくて、ひとりふるふると首を横に振った。
でも……嫌でもルカにはもう一度会って傘を返さなきゃ。
(もう、乾いたかな)
昨日ルカに貸してもらった傘を、今日は晴れだったから、家の庭に干してきたのだ。
どこでどうやって返せばいいのかは、全くわからないけど……。
ふう、とため息をついて何気なく車内を見回すと、斜め前に見える細長い座席の一番端に、まるで存在を消すかのように小さくなって座る葉村くんの姿があった。私との距離は、ほんの二メートルくらい。
この車両の中には、私たちと同じ制服を着ている高校生はいない。
つまり、今なら声をかけても、クラスメイトにばれることはない。
(でも……声かけて、無視されたら、ショックだし……)
行動するより先に、そんな不安が勝ってしまい、結局何もできない私。
そのまま葉村くんから目をそらすようにして、くるりと体の向きを変え、窓の外を眺めた。
畑にうっすらと積もった雪が朝陽できらきらと光っていて眩しい。
(昼間は暖かくなりそうだし、今日中に全部解けちゃいそうだな……)
この辺りでは冬でもあまり雪が積もることがないから、少し残念。
そんなことを思いながら、私は電車に乗っている間ずっと、白い景色を瞳に映していた。