スノウ・ファントム
邪魔な前髪をぐい、とかきあげて立ち上がると、そこには感慨深そうに自分自身を眺めまわす“ルカ”がいて。
「……すごい。本当に、入れ替わってる」
「ああ、成功したみたいだな」
「ありがとう、ルカ」
こんな時にお礼を言うのはおかしいだろうと、俺は苦笑する。
「……ま、これなら誰にも“葉村理久が死んだ”とばれることはないだろう」
彼にとってのメリットはそこだった。
一度死んでいる俺の肉体が下界でもう一度死んだとしたら、その肉体は跡形もなくなくなるのだと、前にキョウさんに聞いた。
上の世界から、実際にそのケースを見たこともあるらしい。
誰にも知られることなく、誰にもばれることなく、ひっそりと死にたい。
――それが、葉村理久の望みだから。
「けど、誰にも……じゃない。たった一人だけ、気づいてくれる。僕が死んだこと」
「……キナコ、か。確かに……」
彼女には、すべてを話すつもりでいる。俺たちの入れ替わりと、その目的を。
その時キナコがどんな反応を示すかはわからないけど……
さっき葉村が言っていたように、彼女が俺を好きでいてくれるなら、共に生きられることを喜んでくれるんじゃないかって、俺は期待しているんだ。